研究概要 |
平成12年度では、(1)断熱的光異性反応による励起状態生成物から始原分子へのエネルギー移動を原理とするもの、ならびに、(2)光誘起電子移動で生成するカチオンラジカルの原子価異性と生成物カチオンラジカルから始原分子への電子移動を原理とするドミノ増幅系の初期検討を行った。前者(1)については、ベンズバレン型の化合物について、断熱的な光芳香化反応が進行するかどうかを検討した。まず、ナフトバレン誘導体の熱ならびに光異性化を検討し、熱的に芳香化するナフトバレンはDewarが提唱する"許容協奏過程"で進行することが分かった。さらに,カルボニル置換基を導入したナフトバレンが断熱的な光化学反応を起さないかを調べた。具体的にはナフトイルナフトバレンを設計・合成した。その結果、ナフトイルナフトバレンは光化学的にナフトイルナフタレンを与えることを見いだし、さらに、レーザー分光法により以下の知見を得た。ナフトイルナフトバレンの励起1重項はナフトイルナフタレンを与えるが、励起3重項は原子価異性を起さない。ナフトイルナフトバレンの励起1重項からナフトイルナフタレンへの反応には、双生イオンと思われる中間体が観測され、断熱的原子価異性には不適当でる。その結果、カルボニル置換基以外のクロモフォアを考えるべきであることが分かった。後者、(2)の原理のものでは、クアドリシクランについて、光誘起電子移動で生成するカチオンラジカルを経由するノルボルナジエンへの異性化を検討した。電子受容体としてクロラニルなどのキノン類を用いたところ、クアドリシクランのカチオンラジカルが容易にノルボルナジエンのカチオンラジカルに異性化することを見いだしたが、、キノンのアニオンラジカルと速やかに反応することが分かった。この知見より、非反応性の電子受容体を用いるべきことが示唆された。以上、平成12年度では、反応系設計への指針が得られ、研究は計画どうり進行している。
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