研究概要 |
平成14年度では、平成13年度の検討の結果、すなわち、断熱的光異性反応を原理(原理1)とするものでは、ナフトバレンについてのレーザーホトリシスの結果、また、光誘起電子移動を原理(原理2)とするのものでは、クアドリシクラン誘導体について連鎖が進行するという結果、これらの知見に基づいて研究を展開した。原理1に関しては、ナフトパレンの断熱的光異性に関して、純粋な母体ナフトバレンを合成し、その光ダイナミックスについて、レーザーホトリシスにより、詳細な検討を行った。その結果、ナフトバレンの光異性化の全量子収率は0.3であり、その内、励起1重項間の断熱的光反応の量子収率が0.1占めていることが分かった。一方、励起3重項生成の量子収率は、0.15程度であったが、その内断熱反応と項間交差に由来する部分が0.08程度ある。また、ナフトバレン3重項は、異性化しないことが分かった。その結果、量子収率で0.07程度の励起1重項なら3重項ナフタレンへの断熱的光反応の存在は否定できないが、3重項ナフタレンが異性化しないので、ドミノには適当でないとの結論に達した。一方、原理2に関するものでは、クアドリシクランの電子供与生を増大させるため、フェニル基の導入を検討し,クアドリシクランに直接にフェニル基を導入する合成法を開発した。この方法で合成した、フェニル-クアドリシクランについて、トリフェニルピリリウムを受容体とする光反応系を試みた。この反応系では極めて効率のよい連鎖反応が進行し、見かけの量子収率が180以上という驚異的な増幅系が達成できた。これは、情報変換という立場でも、さらに、ノルボルナジエン/クアドリシクラン系が、よい光エネルギー貯蔵体でもあるので、貯蔵エネルギーの取りだし過程においても、有効な系と考えられる。 以上、平成14年度では、極めて有効な具体的な系を見いだし、研究はほぼ計画を達成した。
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