研究概要 |
分子光応答の量子増幅について、原理の異なる2種の反応系の検討を行った。その1つは、断熱的光異性反応とエネルギー移動を原理とするもので、ナフトイルナフトバレンの光反応挙動を調べたが、反応は段階的で、断熱反応は見られなかった。しかし、ナフトバレンが断熱反応を起すという報告があるので、ナフトバレンのレーザーホトリシスを行った結果、ナフトバレンの光異性化の全量子収率は0.3であり、その内、励起1重項間の断熱的光反応の量子収率が0.1占めていることが分かった。一方、励起3重項生成の量子収率は、0.15程度であったが、その内断熱反応と項間交差に由来する部分が0.08程度ある。また、ナフトバレン3重項は、異性化しないことが分かった。その結果、量子収率で0.07程度の励起1重項なら3重項ナフタレンへの断熱的光反応の存在は否定できないが、3重項ナフタレンが異性化しないので、ドミノには適当でないとの結論に達した。 もう1つの系は、光誘起電子移動と暗反応での電子移動を原理とするものであるが、この原理に関するものでは、クアドリシクラン誘導体を検討した。クアドリシクランの電子供与生を増大させるため、フェニル基の導入を検討し,クアドリシクランに直接にフェニル基を導入する合成法を開発した。この方法で合成した、フェニルークアドリシクランについて、トリフェニルピリリウムを受容体とする光反応系を試みた。この反応系では極めて効率のよい連鎖反応が進行し、見かけの量子収率が180以上という驚異的な増幅系が達成できた。これは、情報変換という立場でも、さらに、ノルボルナジエン/クアドリシクラン系が、よい光エネルギー貯蔵体でもあるので、貯蔵エネルギーの取りだし過程においても、有効な系と考えられる。 以上、極めて有効な具体的な系を見いだし、研究はほぼ計画を達成した。
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