研究概要 |
オキサゾリジノン環は,不斉合成のキラル補助基として有機合成上重要な複素環化合物である。本研究では,N-アシルオキサゾリジノンからの効率的なオキサゾリジノン除去法の開発を目的として,炭酸ジメチル存在下におけるメトキシドアニオンとの反応を検討している。今年度はより効率的な反応条件の確立を行うとともに,本法を面不斉シクロファン分子の合成へと応用することを目的として研究を行った。 昨年度我々が開発したオキサゾリジノン除去反応は,炭酸ジメチル5当量存在下にメトキシドイオンを反応させる方法であり,この方法でN-アシルオキサゾリジノンのN-アシル開裂が効率的に行えることを明らかにした。本法では炭酸ジメチルの添加効果により,副生するヒドロキシエチルアミドからオキサゾリジノン環への再環化反応を促進させていることから,反応をさらに効率的に進める目的で,炭酸ジメチルを溶媒として用いる改良法について検討した。その結果,様々なアルキル基およびアリール基を持つ基質において顕著な反応時間の短縮が観測され,炭酸ジメチルを溶媒として用いる効果が確認された。特に我々の従来法では補助基の選択的除去が困難であった3級アルキル基を持つ基質の反応速度が飛躍的に向上し,望むエステル誘導体のみを高収率で与えることが示された。 一方,N-アシルオキサゾリジノンと平衡系にあるヒドロキシエチルアミドは,我々が別途開発を行っている面不斉シクロファン分子の立体制御に極めて有用なキラル補助基である。そこで,様々なヒドロキシエチルアミドを炭酸ジメチル存在下にメトキシドイオンとの反応を行ったところ,いずれの基質からも高収率でエステルが得られることを見いだし,本法がヒドロキシエチルアミドのN-アシル開裂としても極めて有効であることを明らかにした。また,この反応を利用して光学的に純粋な面不斉シクロファン分子を実質的に不斉合成することに成功した。
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