研究概要 |
特有な環系構造を有する化合物は,その構造に由来した物理的・化学的・生物的機能を発現する潜在性を持つ。それ故このような化合物を基盤として適切な分子設計を行い合目的的な誘導体合成を遂行することは興味がもたれる。本研究ではフラーレン及びスクエア酸の特異環系化合物に焦点を当て基礎的な付加反応に関して検討を加えた。 1、[60]フラーレンは球状で表面がπ電子で覆われているという,非局在電子系としては特異な立体的・電子的特性をもつ。本研究では,チオカルボニルイリドの1,3-双極性環化付加続く酸化反応とプンメラー転位により,アセタール官能基を有するテト・ラヒドロチオフェン縮合体を得,これを活用し親電子置換反応を駆使して核酸塩基等様々な官能基導入を計ることに成功した。またイソシアノアセテートとの触媒的環化反応によりデヒドロプロリン縮合体が得られることも明らかにした。[4+2]環化付加ではシクロオクタテトラエンとの反応を行い、さらに付加体に存在する二重結合に対する親電子付加においてフラーレン殻の電子受容性や一重項酸素増感性の関与が認められた。ピロールスルフォレンとの環化では,3,4-ジメチレンピロールが直接トラップされた最初の例を与え、フラーレン殻の高い親ラジカル性が実証された。 2、スクエア酸は四角平面型の特異芳香族である。歪みを内在し,これをの駆動力として利用した環変換が可能である。本研究では,ニトレン中間体により誘起される新規の5員環への環拡大反応が効率よくおこることを見出した。生成物は2-アザシクロペンタジエノンである。この種の化合物は従来母系では寿命数秒とされていたが,共鳴安定化により加熱条件でも安定に存在することが証明された。 なお上記のような溶液反応に対し,固相反応であるトライボロジーを応用した合成研究を次年度に行う。
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