医薬、農薬あるいは化成品中間体として広く利用されている化合物には、基本骨格としてチオールエステル基(C(-C(=O)S-)を有するものも多く、これら化合物の合成ではチオールエステル基をどのように構築するかが重要なポイントとなる。このためチオールエステル基の簡便かつ高効率導入法の開発は有機工業化学的にもまた合成化学的にも極めて重要な研究課題である。従来法では、まず高温・高圧下、一酸化炭素と硫黄を反応させ硫化カルボニルを合成し、それと種々の求核剤、アルキル化剤を順次反応させる3段階合成法が広く採用されている。本研究では、この命題に対するアプローチとして元素セレンのユニークな触媒作用を活用することにより、求核剤、低圧の一酸化炭素とジスルフィドの3成分カップリングを系中でOne-potで行なうという従来の方法とは著しく異なる手法によるチオールエステル誘導体の新規合成法の開拓を目的として研究を行なった。 その結果、セレンを触媒としてアルコールとジスルフィドの反応を一酸化炭素の加圧下行なえば、S-アリールならびにS-アルキル-O-エチルカルボノチオレートが得られるとの結果を得た。例えば、セレンを触媒とし、エタノールとジフェニルジスルフィドの反応を一酸化炭素(5気圧)加圧下で行なうとS-フェニル-O-エチルカルボノチオレート(EtOC(=O)SPh)がほぼ定量的に得られた。またこの反応では種々の脂肪族アルコールも利用可能であり、種々のS-フェニル-O-アルキルカルボノチオレートが収率良く合成できる。また、ジスルフィドとしてジアリールジスルフィドのみならず、ジアルキルジスルフィドも利用でき、種々のチオールエステル誘導体のOne-pot合成が達成できた。
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