環状硫黄イリドとBaylis-Hillman付加体誘導体のタンデム型反応による多官能炭素中員環合成について検討した。特に、その基質の汎用性、またイリドの環サイズの変化が反応性及び立体選択性に与える効果について検討した。5員環オキソスルホニウムイリドの反応は、Baylis-Hillman付加体誘導体の置換基の種類によらず全ての場合において立体選択的に19-74%の収率で生成物を与えた。生成物の立体構造の解析は単結晶X線結晶構造解析により行い、環外二重結合の幾何、フェニルスルホニル基とオキシランの相対配置、また不斉中心となる硫黄原子の構造を明らかとした。特に硫黄原子上の構造から、最初のS_N2′型求核置換反応の際、イリドは選択的に酸素原子側から付加していることが示唆された。また分子内Corey反応の際には堅固なビシクロ構造を経由して進行していることが推測された。 また6員環オキソスルホニウムイリドの同様な反応についても検討した。種々の置換基を有するBaylis-Hillman付加体誘導体の反応を行ったところ、タンデム反応生成物であるシクロオクテン誘導体を7-46%の収率で与えたが、いずれの場合においても2種類の立体異性体の4:1混合物であった。この異性体の構造についても単結晶X線測定により考察し、硫黄原子上の構造の差異によるものであることが明らかとなった。このことより6員環の場合には最初のイリドの置換反応の際、酸素側とフェニル基側からの攻撃が競争的に起こっていることが示唆された。 更に本反応の天然物合成への展開を指向して、ヒドロアズレン骨格を有するセスキテルペンのZIERONE合成について現在研究を行っている。本合成を達成するためには環状のBaylis-Hillman付加体型の基質が必要となるが、試行錯誤の結果、トリメチルアルミニウム存在下ベンゼンセレノールによる分子内Baylis-Hillman反応により合成できることが明らかとなった。現在得られた基質と環状硫黄イリドの反応を鍵段階とするZIERONE合成について検討している。
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