研究概要 |
本研究は、困難とされてきたトリフルオロメチル基近傍における求核置換反応の開発と展開を目的とする。本年度は昨年度開発した分子内求核置換反応を利用したシクロプロパン化合物の合成反応について、そのジアステレオ選択性の解明を行なうことにより、この反応におけるトリフルオロメチル基の立体効果の評価を行い、またその計算化学的考察を行なった。 市販の光学活性な2,3-エポキシー1,1,1-トリフルオロプロパンを原料として、γ-シアノヒドリンを合成し、水酸基の分子内求核置換反応により、1-シアノ-1-アリール-2-トリフルオロメチルシクロプロパンを高ジアステレオ選択的に合成した。このとき、トリフルオロメチル基とアリール基はトランスの関係にあることをX線結晶構造解析法により確認した。このアリール基の置換基効果を詳細に検討したところ、計算化学的に見積もったそのアリール基のオルト位のsp2炭素上の電荷とジアステレオマー生成物比の対数とが直線関係にあることを見出した。さらに、その原料化合物の最安定化構造におけるトリフルオロメチル基とアリール基のオルト位炭素上の電荷と、シアノ基窒素上の電荷との静電反発力によりこのジアステレオ選択比を説明できることを示した。 今後は計画どおり、この反応の5員環形成反応への適用の検討(一部成果をヘテロ原子化学討論会で報告)、3員環形成反応の適応限界の検討に研究を進める予定である。
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