ニトロン類は1、3ー双極子構造を有していることから、オレフィン類などのジポーラロフィルと容易に環化付加し複素環構造を形成する。この反応を利用した天然化合物の化学合成は種々検討されているが、この反応を重合反応に応用した例は少ない。そこで本研究では、数種の新規なジニトロンモノマーを合成し、ジポーラロフィルとしてジイソシアネートやビスマレイミド及びジエン類を用い1、3ー双極環化重付加反応による新規高分子材料の合成を検討した。その結果、数平均分子量数万程度の分子量を持つ複素環構造を有する新規ポリマーが得られ、これらが極性溶媒に良く溶解し、フィルムやシートへの加工が可能であることがわかった。また、生成した複素環構造が、天然化合物と類似構造をとっていることから、材料としての使用後の廃棄を考え生物分解性について検討した。分解酵素としてリパーゼ、パパインを用い、37℃水溶液中での酵素によるポリマーの分解を調べたが、顕著なポリマーの分子量低下は観測されなかった。今後は土壌中への埋没試験など更なる検討が必要である。次に、ジニトロンモノマーへのラジカル付加によるポリマーラジカル生成反応を検討するため、ジニトロンージエチルベンゼン共存下各種ラジカル発生剤との反応を検討した。その結果、予想したポリマーラジカルは生成しなかったものの、リビングラジカル重合のドーマント種として知られるポリアルコキシアミンが生成することがわかった。また、これらがリビングラジカル重合のドーマント種として利用可能であることを明らかとした。最後に、ニトロンのラジカル捕捉剤としての機能を高分子材料に付与するため、高分子構造中にニトロン構造を有する材料を合成し、スピントラップ剤としての利用を検討したところ、十分利用可能であることを明らかとした。
|