研究概要 |
本研究では,D体分率の異なる複数のポリ乳酸(PLA)を用い,複合高速紡糸において,成分間相互作用を利用して新規な高次構造の制御法を試みるというミクロな視点と,各成分の繊維断面内配置を制御するというマクロな視点を組み合わせることを通じ,生分解により繊維が使用できなくなるまでの時間や,それに至るまでの物性変化の挙動を高度に制御した生分解性複合繊維を作製することを目的とした.具体的には,高結晶性である低D体分率ポリ乳酸(PLA)を芯成分,非晶性である高D体分率PLAを鞘成分とする芯鞘型複合繊維を作製し,その構造・物性について各成分を単独で紡糸した繊維と比較検討した.紡糸線上での直径測定および広角X線回折測定の結果から,複合繊維中の低D体分率PLA成分・低D体分率PLA単成分繊維ともに配向結晶化が巻取速度5km/min以上で起こることが明らかになった.一方,複屈折測定の結果から,複合繊維中の低D体分率PLA成分の複屈折は,低D体分率PLAを単独で紡糸した場合に比べ高速域において促進されるのに対し,高D体分率PLA成分の複屈折は単独での紡糸したものより抑制されることが明らかになった.力学試験の結果,複合繊維のヤング率・破断強度は,7km/min以上でそれぞれ5GPaおよび400MPa程度であり,最大収縮率は15%以下であった.高速紡糸PLA繊維の熱挙動について温度変調DSC(TMDSC)により詳細な検討を試みた.不可逆成分の吸熱挙動は,主に高速紡糸線上あるいは延伸・熱処理過程で形成された完全性の高い結晶の融解に対応することが明らかになった.またポリエチレンテレフタレート(PET)繊維と比較すると,PLA繊維の場合完全性の高い結晶が融解した後に融解・再結晶化が起こるのに対し,PET繊維は先に融解・再結晶化が起きてから完全性の高い結晶が融解することが明らかになった.
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