大きな二次非線形光学効果を有する有機非線形材料は、同時に可視域に吸収を持つことが多く、そのため発生した光を自己吸収してしまうという欠点があった。本研究の目的は、このような欠点を回避し、大きな非線形光学効果を有する新しい液晶高分子材料を創出することである。そのために、エステル結合などでクロモフォアが複数連結した(チェインド・クロモフォア)骨格を選び、量子化学計算や分子動力学計算による分子設計とともに、実際に合成して得られた化合物の構造解析や非線形光学効果等の物性評価を連動させた研究を進めてきた。 得られた成果は以下に記すようなものであり、5つの論文を報告することができた。さらに2報投稿準備中である。 (1)まず全芳香族ポリエステルモデル化合物のエステル結合の内部回転によるポテンシャルエネルギー変化を密度汎関数法計算により求めた。そして最安定構造、回転の遷移状態を求めた。 (2)さらに安定構造における二次超分極率を求め、全芳香族ポリエステルが本質的に可視域に吸収を持たずに大きな二次非線形光学効果を有する材料であることを示した。その原因の理論的解明も行った。 (3)全芳香族ポリエステルオリゴマーについて、様々なパッキングの安定性を分子動力学計算により検討した。ダイレクターをすべて同じ方向に向けた場合(強誘電性極性パッキング)が最安定となることが示唆された。 (4)さらに末端基のドナー・アクセプター性を変えた様々なチェインド・クロモフォア・モデルについて密度汎関数法計算を行った結果、カルボン酸とシアノ基が大きな非線光学効果を示すアクセプターとして有望であることがわかった。
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