研究概要 |
平成12,13年度において、らせんペプチド鎖のN末端における新しいキラル相互作用として、「非共有結合型キラルドミノ効果(Noncovalent Chiral Domino Effect : NCDE)」を提唱した。本年度はNCDEに関する次のことが明らかとなった。 (1)NCDEの一般性:鎖中にLアミノ酸を持つ9量体ペプチドぽ単独では天然らせんの様に右巻きらせんをとるが、NCDEの作用により元のらせん構造の安定性に差異を引き起こした。即ち、作用するキラルカルボン酸のキラリティによって、元の右巻きらせんが安定化・不安定化することが分かった。 (2)NCDEのためのらせん構造の証明:NCDEを検証してきたらせん構造の正確な構造データを知るため、類似のアキラル9量体ペプチドのX線結晶構造解析を行なった。このペプチドは4→1型水素結合で支持される典型的な3_<10->ヘリックス構造で、らせんの周期は3.1残基で1回転であった。この構造は理論的にも支持された。 (3)共有結合型キラル相互作用によるらせん誘起:一連の研究は自然界におけるキラリティとらせん誘起の相関を明確にすることが最終目標であるが、この意味から共有結合型キラル相互作用を検証した。アキラルペプチドのN末端から2番目に様々なLアミノ酸を導入したところ、導入アミノ酸の種類や溶媒によって誘起されるらせんの方向が異なった。これは、各Lアミノ酸が異なる巻き方向の指向性を内在しており、新しいらせん形成因子として注目される。 (4)水中におけるNCDEの検証:疎水性アキラルペプチドのN末端を塩にした両親媒性ペプチドの水溶液にキラルカルボン酸を添加したところ、元のペプチドがミセル状態にあるとき、不斉誘導が観測できた。即ち、生化学的に重要な水中でもNCDEが作用することが明らかとなった。また、不斉誘導したペプチド鎖間には高い不斉環境が備わっていた。この系は学術的成果だけでなく、様々なキラル応答性素子への展開が期待できる。
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