らせんペプチド鎖における新しいキラル相互作用として、「非共有結合型キラルドミノ効果(Noncovalent Chiral Domino Effect : NCDE)」を提唱した。NCDEによれば、まず光学不活性なペプチド系らせん鎖がそのN末端で外部分子のキラリティを認識する。次に、獲得したキラル信号が鎖全体にドミノ倒しのように伝播し、片方のらせんを誘起させる。本研究の成果は次のように纏めることが出来る。 (1)ペプチド骨格の設計:非天然アミノ酸を含む光学不活性なペプチド系らせん構造を合成し、その固体構造を明らかにした。一連のペプチドは典型的な3_<10->ヘリックスを形成していた。 (2)NCDEによるらせん誘起:(1)で設計したN末端フリーペプチドにキラル酸を添加すると、片方のらせんが誘起された。 (3)キラルペプチドのらせん構造の制御:NCDEはキラルペプチドのらせん構造に対して、元の構造安定性を制御(安定化、不安定化・反転)できることが分かった。 (4)ドミノ効果の発現のための立体化学:NCDEの発現機構を明らかにした。3_<10->ヘリックス構造のN末端部分は水素結合に関与しない2つのフリーなアミドNH基があり、これが外部分子を多点相互作用により捕まえ、そのキラリティを認識することが分かった。 (5)共有結合型キラル相互作用によるらせん誘起:アキラルペプチドの特定の位置にLアミノ酸を導入した時、位置と巻き方向の関係から、各Lアミノ酸の巻き方向の指向性を明らかにした。 (6)官能基化されたデヒドロペプチドのコンホメーション解析:光学不活性なペプチドらせんへの様々な化学修飾が可能となり、キラル素子のためのペプチド設計への展開を可能にした。 (7)多次元ドミノ効果による水中での不斉誘導:ペプチドがミセル状態にあるとき、水中で不斉誘導が観測できた。不斉誘導したペプチド鎖間には高い不斉環境が備わっており、様々なキラル応答性素子への展開が期待できる。 以上、本研究の成果は広い学問分野において重要であり、将来的に様々なペプチドを基にしたキラル素子へ展開できる。
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