研究概要 |
本研究課題に対する本年度の研究実積を下記にまとめる。 1)重量平均分子量Mw 11,000(脱アセチル化度DDA 98%)のキトサン(Ch)を中心に、我々が開発した凍結解凍法により調製したキトサン・ヨウ素(ChI)錯体の酢酸buffer溶液(pH4)の分光特性を調べた。その結果、(1)ChI錯体は500nm付近に特性吸収帯とそれに対応する短波長から長波長へ正負に分離したCD帯を持つ;(2)共鳴ラマン測定から、錯体の呈色に関わる結合ヨウ素種はI^-_3である;(3)NMR測定から、Chのグルコサミン残基の結合ヨウ素との相互作用部位は、C-1,C-3,C-4の水酸基であることが分かった。 2)溶液小角X線/中性子(SAXS/SANS)散乱および分析用超遠心(US)によるChI錯体に対する構造研究の結果、錯体はChの結晶構造における伸張した形態からなるCh鎖が分子間水素結合ネットワークにより円筒状の分子集合体を形成し、それらによって包接された形で中心に多ヨウ素鎖が存在する構造からなり、一方、遊離Chは楕円体構造をもつと特性化された。 3)錯形成に対する温度履歴挙動は、吸収・CDいずれの特性光学量にも認められた。この挙動に関してSAXS・US測定により構造特性を調べた結果、光学量と相関して、錯体の分子量および回転半径Rgが温度履歴挙動を示すことが観測された。これにより、ChIの錯形成にChの結晶様伸張形態の凝集が重要であると結論された。 4)MDに基づくアニーリングによるCh鎖の形態変化に対する分子シミュレーションの結果、CI錯体の不可逆性あるいは温度履歴挙動は、Chの分子特性、すなわち、「Chは溶解によって、その形態は結晶様伸張形態から折り畳まれた(蛋白質のβ-シート様)形態に移行する傾向があり、そのシート様形態はアニーリング処理の冷却では容易に伸張構造に戻ることが出来ない」ことに起因していることが示唆された。比較のため、温度履歴挙動を示さないアミロースについて同様な計算を行った結果、アニーリングによりアミロース鎖の構造分布はもとの6/1ラセン構造近傍を揺らいでいることを確認した。 以上の結果は、論文3報および国内外の学会発表4件で報告した。以下に、現在の準備状況をまとめる。 a)種々の分子量(Mw6500-200,000)およびDDA(30-100%)のCh試料を調製・精製した。これらを用いて、錯形成因子であるCh/ヨウ素濃度を含め、錯形成に対するChの分子量およびDDA依存性を検討中である。 b)他の天然多糖類、セルロースおよびポリガラクトサミンのヨウ素錯形成能について追究中である。 c)pH6.5-7の領域で溶解する低分子Chを調製し、その錯形成能を調べた後、高肺転移性悪性黒色腫細胞あるいは高肝・脾転移性悪性リンパ腫細胞を、ヨウ素処理Ch試料非存在下・存在下においてそれぞれマウスに尾静脈投与し、2週後に摘出した肺の転移結節数あるいは肝・脾リンパ腫浸潤像の組織学的解析により、ヨウ素処理各種分子特性をもつChの転移抑制活性評価を検討中である。
|