エチレンとアルケンとの共重合体である直鎖低密度ポリエチレンをデカリンやテトラリンなどの有機溶媒中に高温で溶かし、その熱溶液を室温近傍で冷却すると、系全体は熱可逆性ゲルへ転移する。この研究では、エチレン連鎖長や短鎖分岐数のような高分子の1次構造の性質がゲルの架橋点の大きさ、つまり、ゲル中での高次構造長(架橋長)にいかなる影響を及ぼすかを、Flory-Hugginsの相互作用係数χをパラメーターとして詳細に検討した。 1次構造長であるエチレン連鎖長L(E)は、NMRの測定を行い、1次Markov(マルコフ)統計を仮定して推算した。高分子/溶媒間の相互作用パラメーターχの温度依存性は、インバースガスクロマトグラフィー(IGC)より求めた。ゲル化溶媒としては、χパラメーターの値が異なるものをできるだけ多く選んで用いた。ゲルの架橋長ζは、ゲル融点の測定を行い、高橋-中村-香川の理論(TNK理論)及び田中-Stockmayerの理論(TS理論)を用いて推算した。その結果、以下のような結論が得られた: 1.TNK理論及びTS理論のいずれを用いても、ゲルの架橋長ζはほぼ同程度の値となり、この研究で用いた試料ではζの分布は、ζ=5〜29程度であった。 2.同一試料でも、ゲルを作るときの溶媒が、より貧溶媒になればなるほど(つまり、χの値が大きくなると)、ζは大きくなる傾向を示した。 3.試料中に短鎖分岐が増えていくと、ζは単調に減少していく。 4.χの値が大きくなるような系(つまり、より貧溶媒としてふるまうような溶媒中)から生成するゲルの高次構造長ζの値は、1次構造長L(E)より、若干大きくなる傾向を示した。 5.χの値が小さくなる、つまり、比較的良溶媒としてふるまうような溶媒中でゲルを作ると、そのゲルの架橋長ζは、ほぼ1次構造長L(E)と一致する。
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