本研究は、パンコムギのもつ近縁異種植物との交雑親和性に関与する遺伝子の一つであるKr1について、ディファレンシャル・ディスプレイ法(DD法)により、cDNAを合成し、塩基配列の特性からその機能や同祖遺伝子間の変異の特徴を明らかにしようとするものである。平成12年度は、Kr1遺伝子の座乗する5B染色体に関する組換え近交系の育成と、既存の組換え近交系を利用したDD法によるcDNAの合成を目的に研究を行った。 組換え近交系の育成:昨年までに品種Chinese Spring(CS)とCSの5B染色体を品種Hopeの5B染色体に置換した系統との交雑F1を花粉親として、CSモノソーミック5B系統に交配し、その子孫から2n=41のモノソーミック個体を選抜した。今年度は、これらのモノソーミック個体を自殖した後代から2n=42のダイソーミック個体を選抜した。47系統各5個体ずつ播種して染色体を調査し、その中から30系統の近交系を得ることができた。この操作によって、5B染色体に関してCSとHopeの遺伝的構成が平均して50%であることが期待される近交系が育成された。 DD法によるcDNAの合成:品種Maraの5B染色体に関する組換え近交系18系統にライムギを交配したところ9系統が劣勢のkr1を、7系統が優性のKr1をもつことが判明し、2系統が不明であった。これらの系統を優性と劣勢の遺伝子を持つグループに分け、それらの開花期の雌蕊をバルクしてRNAの抽出を行った。各々からmRNAの抽出を行い、逆転写によりcDNAを合成し、12塩基の任意プライマーを用いて多型の有無を検出しているところである。
|