普通バレイショの葉緑体DNAは、その祖先種であるアンデス原産栽培4倍性バレイショと異なり、241塩基の欠失部位を持つことから、T型葉緑体DNAと名付けられている。T型葉緑体DNAは、アルゼンチン北部のアンデス原産栽培4倍性バレイショの数系統に、また、その祖先種である栽培2倍種Solanum stenotomumでは、その分布域の最南端であるボリビア南部(アルゼンチンとの国境近辺)から採集された1系統に見いだされた。そこで本研究は、アルゼンチン北部からボリビアとの国境付近に分布する多数の野生2倍種系統について欠失の有無を調査し、T型葉緑体DNAの起原を明らかにすることを目的として行われた。 Kawagoe and Kikuta(1991)によって明らかにされている欠失部位とその周辺領域の塩基配列情報を元にプライマーを作成し、PCRを行った。その結果、T型葉緑体DNAを持つものからは約200塩基のバンドが見られ、その他の葉緑体DNA型を持つものは約440塩基のバンドが見られた。 このPCRによる簡便な欠失の検出法を用いて、ボリビアとアルゼンチンに分布する35の野生種に属する566系統を調査した。その結果、39系統のS.tarijenseのうち10系統、36系統のS.berthaultiiのうち4系統、そして5系統のS.neorossiiのうち2系統において欠失が見られた。 また、T型葉緑体DNAを持つこれらの系統を含む38種55系統について、欠失とその周辺領域の塩基配列を調査した結果、T型葉緑体DNAを持つ系統はいずれも同じ部位で241塩基の欠失を生じていることが明らかとなった。 これらの研究結果から、普通バレイショのT型葉緑体DNAは、S.tarijense、S.berthaultiiおよびS.neorossiiのいずれかに由来するものと考えられる。
|