普通バレイショの葉緑体DNAは、その祖先種であるアンデス原産栽培4倍性バレイショと異なり、241塩基の欠失部位を持つことから、T型葉緑体DNAと名付けられている。T型葉緑体DNAの起原を明らかにするため、PCRによる簡便な欠失の検出法を用いて、ボリビアとアルビンチンに分布する35の野生種に属する566系統を調査した。その結果、Solanum berthaultii、S.neorossiiおよびS.tarijenseの合計16系統において欠失が見られた。また、欠失とその周辺領域の塩基配列を調査した結果、T型葉緑体DNAを持つ系統はいずれも同じ部位で241塩基の欠失を生じていることが明らかとなった。次に、241塩基の欠失部位の有無に加えて、2つのPCR-RFLPマーカー(H2とH3)と4つのマイクロサテライトマーカー(NTCP6、NTCP7、NTCP14およびNTCP18)を用いて、30系統のS.berthaultii、5系統のS.neorossii、62系統のS.tarijense、25系統のS.berthaultiiとS.tarijenseの雑種(以下、単に雑種と表記する)、およびT型葉緑体DNAを持つ11系統のS.tuberosumについて葉緑体DNAの多型を分析した。これらの系統において24の異なる葉緑体DNA型(haplotype)が識別されたが、T型葉緑体DNAを持つ11系統のS.tuberosumはすべて同じ多型を示した(haplotype1)。このhaplotype1は、14系統のS.tarijenseと4系統の雑種に見られ、S.berthaultiiやS.neorossiiには見られなかった。したがって、普通バレイショのT型葉緑体DNAはS.tarijenseに由来することが明らかとなった。
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