研究概要 |
イネの穂の下部に着生する弱勢な穎果では,光不足の条件下でその初期生長が遅延し,登熟が悪化する.そこで,前年度には最も基本的な光の影響と考えられる初期生長の日変化を調べた結果,穎果の伸長生長は日中に限られていた.今年度は,イネ穎果の初期生長が日中に行われる生理的機構を解明することを目的とした.まず,開花後3日目の6:00から同4日目の18:00までの間,4時間ごとに穎果内の各組織における細胞分裂について調べた.その結果,胚乳の分裂は主に10:00と22:00に観察され,明期もしくは暗期に移った直後に行われていた.母性組織(果皮および珠心表皮)では分裂頻度は胚乳よりも低いが,日中に高く夜間は低い傾向が見られた.したがって穎果の伸長は母性組織の細胞分裂と同調しており,それらは日中に起こること,胚乳の分裂期間は短いが分裂頻度を高めることで母性組織の分裂とバランスを取っていることが分かった.さらに胚乳の分裂周期は12時間であることから,胚乳の分裂にも光が関与している可能性が示唆された.次に,初期生長期における穎果の主な炭水化物である糖の濃度や植物ホルモンであるアブシジン酸(ABA)およびサイトカイニン濃度を調べた.糖濃度は夜間に増加が停滞する傾向を見せたものの,明確な日変化ではなかった.一方,植物ホルモンは光に対して非常に敏感な反応を示し,ABA濃度は日中に高レベルを維持し,夜間にはいると急激に減少し,穎果の伸長生長と完全な同調性を示していた.またサイトカイニン濃度は日中減少し,夜間は増加するという推移を示した.以上より,穎果の初期生長に関する生理・形態学的特性は,光と密接な関係をもつこと,そして,光の変化にアブシジン酸が敏感に反応することにより,しかも生長促進要因として働くことにより,穎果の初期生長が調節されていることが示唆された.
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