研究概要 |
閉鎖系養液栽培では,培養排液による環境汚染を防ぐために培養液を循環して再利用することが考えられている.その場合,培養液中に肥料分や病原菌を除去することは可能であるが,植物の根から出る生育抑制物質(アレロパシー物質)の除去は困難である.本研究者は,キュウリの養液栽培における生育後半の収量低下が根からのしん出物によるアレロパシーであることを明らかにし,その原因物質として2,4-Dichlorobenzoic acidなどを使用済み活性炭から抽出,同定した.また,活性炭や接ぎ木による自家中毒の回避法を見いだした.しかし,活性炭を使用した場合,培養液中の鉄源となるキレート鉄が吸着されたり,使用済み活性炭の処理にも課題が残る.一方,培養液中に植物の生育抑制物質のひとつであるフェノール物質を消費する微生物が発見されている.そこで,フェノール物質を消費する微生物を利用して,生育抑制物質の除去法について検討した. 実験として,培養液に添加された2,4-Dichlorobenzoic acid分解菌がキュウリの栄養生長に及ぼす効果について検討した.その結果,培養液に2,4-Dichlorobenzoic acidを添加するとキュウリの栄養生長は抑制されたが,2,4-Dichlorobenzoic acid分解菌懸濁液を培養液に入れると2,4-Dichlorobenzoic acidは分解されてキュウリの生育抑制は回復した. 以上より,キュウリの自家中毒の回避方法として,活性炭や接ぎ木の他に微生物の利用が考えられた.来年度は,キュウリの栄養生長すなわち収量に及ぼす効果について検討を重ねる予定である.
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