研究概要 |
水耕キュウリは生育後半の収量が低下するために多く栽培されていない.その原因として培養液中の溶存酸素不足と考えられてきたが,まだ明らかになっていない.そこで,本研究者はキュウリ根から滲出する生育抑制物質すなわちアレロパシー物質に注目をした.その後,その主な抑制物質として,2,4-Dichlorobenzoic acidを同定し,キュウリにてバイオアッセイ,水耕で確認を行った.抑制物質によって引き起こされる収量低下すなわち自家中毒を回避する方法として,培養液の交換や活性炭添加が考えられたが,それらは実用に適さない.そこで,抑制物質を分解する分解菌の利用が考えられた. まず,培養液に添加された2,4-Dichlorobenzoic acid分解菌がキュウリの栄養生長に及ぼす効果について検討した.その結果,培養液に2,4-Dichlorobenzoic acidを添加するとキュウリの栄養生長は抑制されたが,2,4-Dichlorobenzoic acid分解菌懸濁液を培養液に入れると2,4-Dichlorobenzoic acidは分解されてキュウリの生育抑制は回復した.また,抑制物質である2,4-Dichlorobenzoic acidがキュウリの生殖成長すなわち収量(収穫果実数)に及ぼす影響について検討し,2,4-Dichlorobenzoic acid分解菌懸濁液を培養液に入れると2,4-Dichlorobenzoic acidは分解されてキュウリの収穫果実数低下の回復がみられるかどうか検討した.その結果,培養液に2,4-Dichlorobenzoic acidを高濃度(10μmol/liter)添加したにもかかわらず,分解菌懸濁液を添加すると収穫果実数の回復がみられた.また,キュウリ自身の根から滲出される生育抑制物質に対して分解菌が効果を及ぼすかどうか検討した.その結果,生殖成長期に2,4-Dichlorobenzoic acid分解菌懸濁液を培養液に入れると,キュウリの収穫果実数低下の回復がみられた.ただ,懸濁液を培養液に添加するタイミングについて検討が必要だと考えられた.また,以上の研究成果を2002年8月にトロント(カナダ)で行われた第26回国際園芸学会で口頭発表する機会が与えられ,その際外国研究者から多くのアドバイスをもらった.次ぎに,2,4-Dichlorobenzoic acid分解菌懸濁液を培養液に入れるタイミングについて検討を重ねた.その結果,キュウリ根から2,4-Dichlorobenzoic acidが滲出される生殖成長期に分解菌を培養液に添加した場合に顕著な効果がみられた.栄養成長期から分解菌を培養液に添加すると,たとえ生殖成長期に再び添加しても大きな効果は認められなかった.分解菌が効果を発揮する添加のタイミングについて今後とも検討が求められた. 以上より,キュウリの自家中毒回避法として,微生物利用が考えられた.
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