自然界に存在するあらゆる病原体には宿主特異性が存在する。ウイロイドはRNA病原体であり、400個に満たない塩基配列或いは分子構造中に、ある特定の生物種を宿主とするか否かの情報が存在すると考えられ、RNA分子のどこが宿主決定因子になるかを解析するための格好の材料である。ホップ矮化ウイロイド(HSVd)は自然界のさまざまな宿主に感染しており、各々特徴ある変異を持つ変異体が分離される。HSVdが多様な宿主にどのように適応してきたかを実験的に検証するために、まず(1)自然界に存在する変異を様々に組み合わせた変異体集団を作製し、各宿主植物中でどの様に選抜され適応してゆくかを実験的に解析した。また(2)各自然変異株を共通の宿主であるホップに感染させ10年間継代培養し、各自然変異株がホップにどのように適応したかを解析した。 (1)の実験では自然界に存在するHSVdのブドウ、カンキツ、スモモ変異体の感染性cDNAからランダムDNAシャッフリング法で各々に特徴的な変異をランダムに組み合わせた変異体集団を作製した。これをHSVdの自然宿主であるキュウリ、ブドウ、モモ、カンキツ、ホップ及び非宿主であるシロイヌナズナに接種した。その結果、シロイヌナズナを除く5種の植物でHSVdの感染、増殖が確認された。各々の子孫ウイロイドの塩基配列を解折した結果、ブドウでは自然界でブドウに感染しているものとほぼ同一のもののみが選抜され増殖していたが、その他の宿主ではブドウ株とカンキツ株のキメラ分子が、ブドウ株と同様に、優占的に選抜される傾向があった。一方、スモモ株に特徴的な変異は感染の初期にはモモとホップで確認されたが、次第に淘汰されて消失してしまった。 (2)の実験では、通常の栽培を行なったホップで10年間継代したHSVdのホップ、ブドウ、スモモ、カンキツ分離株の塩基配列を解析して、10年前の塩基配列と比較した結果、ホップ・ブドウ変異株に比べてスモモ・カンキツ株の変異が大きいことが明らかになった。つまり、感染した宿主によってウイロイド変異株の適応度に違いがあることが分かった。現在各々の変異株毎の変異率を解析している。
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