関口朝日にいもち病菌を接種するとTryの合成酵素及び酸化酵素であるtryptophan decarboxylase(TDC)とmonoamine oxidase(MAO)の活性が光依存的に増加した。これら両酵素活性は、いもち病菌のイネ細胞への侵入前に観察され、関口病斑形成後でさえ高いレベルに維持されていた。いもち病菌の胞子発芽液はまた両酵素活性の増加とTryの蓄積を伴いながら関口病斑を形成した。しかし、TryにMAOの阻害剤やH_2O_2消去剤であるアスコルビン酸やカタラーゼを添加した場合には壊死斑は誘導されなかった。また、壊死斑はH_2O_2処理により光依存的に誘導された。このことは関口病斑形成にH_2O_2が関与していることを示した。事実、H_2O_2処理によりイネ葉に開口病斑が形成された。しかし暗黒条件下では病斑は形成されなかった。いもち病菌感染葉におけるカタラーゼ活性を調査すると、接種直後には光条件に関係なくカタラーゼ活性は低下し、暗黒条件下では活性は徐々に回復した。しかし、光条件下では活性の回復は起こらなかった。これらの結果より本変異イネの抵抗性発現は次のように考察された。即ち、関口病斑は、いもち病菌の発芽胞子により放出される菌体成分が第1次因子となって光依存的TDC活性を上昇させてTry蓄積が誘導される。これが酵素作用を受けてH_2O_2が生成されるが、光照射下ではカタラーゼ活性の低下によりH_2O_2の消去が行われないために関口病斑が形成されると共に、いもち病菌の侵入を阻止する抵抗性が誘導されると推定された。
|