タバコに病原性を示す青枯病菌Ralstonia solanacearum OE1-1(OE1-1)ゲノムDNAにトランスボゾンTn4431を挿入し、病原性を失った変異株31a、31b、11cおよびB14を選抜した。31a、31b、11cおよびB14のゲノムDNAのprhA、popA、hrpBおよび新規遺伝子の1カ所にそれぞれトランスボゾンが挿入されていた。 タバコ根から接種した場合、31bは接種タバコにてOE1-1と同様に増殖し全身移行することができるが、病原性を示さなかった。しかし、増殖部位である導管に直接接種した場合には病原性を示した。そこで、マーカーエックスチェンジ法によりpopAを含むpopオペロンをカナマイシン耐性遺伝子で置き換えたΔpopABCを作製した。ΔpopABCはOE1-1と同様の病原性を示した。ΔpopABCを31b由来の変異popAを有するpTnpopAで形質転換したところ、31bと同様の性質を示した。また、popAを過剰に発現するOE1-1の形質転換株も31bと同様の性質を示した。すなわち、popAの有無が青枯病菌の病原性に関与しないが、popAの変異や多量の発現により、病原性発現に重要な根における植物との相互作用に影響が与えられることが示唆された。 タバコ葉に注入すると、注入部においてOE1-1は著しく増殖し、注入60時間後に壊死病斑が誘導され、7日後にはタバコ葉は枯死する。11cと同様に、マーカーエックスチェンジ法によって作製したhrpB欠損株ΔhrpBあるいはhrp線毛の構成タンパク質遺伝子hrpY欠損株ΔhrpYは、タバコ葉注入部において注入14日後までそれらの細菌数は注入時とほぼ同一であり、タバコ葉に何ら変化は認められず、OE1-1注入葉で認められたhsr203J等の遺伝子の発現も認められなかった。hrp遺伝子群はタイプIII分泌系をコードしていると考えられており、hrpBはその発現を制御している。すなわち、病原性や過敏感反応の誘導に関連する物質のみならず、植物組織との相互作用における初期認識に関与する物質がタイプIII分泌系を介して分泌されてると考えられた。
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