動物細菌では病原性タンパク質がタイプIII分泌機構を介して宿主へ分泌される。R. solanacearumはタイプIII分泌系を有するが、分泌される病原性タンパク質に関する知見はない。さらに、菌の増殖や病徴発現を決定すると考えられている侵入直後の宿主植物との相互作用に関する知見も数少ない。本研究ではタイプIII分泌タンパク質PopAタンパク質の病原性への関与について検討した。 R. solanacearum OE1-1(OE1-1)のpopABCオペロン欠損株ΔABCはOE1-1と同様に根から接種した場合にも、導管に直接接種した場合にも病原性を示した。一方、恒常的発現プロモーターとpopAを有するpPapaのOE1-1形質転換株Papaと3'端51bpに変異が導入された変異popAを有するOE1-1の変異株31bは、直接導管へ接種した場合にのみ病原性を示した。31bはOE1-1やΔABCと同様に宿主植物内で増殖し移行したが、Papaの増殖と移行は顕著に抑制された。RT-PCRにより、popAまたは変異popAが、OE1-1とΔABC-31bでは侵入3時間後から、Papaでは侵入直後から発現していることが明らかとなった。popAまたは変異popAの発現によって、in vitroでの各株の増殖に影響は認められなかった。 以上の結果から、PopAは侵入3時間後までの宿主との相互作用により、R. solanacearumの増殖能・移行能を、変異PopAは3時間後以降で菌が導管へ侵入するまでの相互作用により病徴発現を負に制御していると考察された。OE1-1では侵入3時間後以降にpopAが発現するため、PopAタンパク質は直接病原性に影響を及ぼさないと考えられた。すなわち、R. solanacearumの病原性を決定する宿主との相互作用は、宿主への侵入3時間後までの菌の増殖と移行を決定するフェーズと3時間後以降でR. solanacerumが導管に移行するまでの病徴発現を決定するフェーズに分かれることが明らかとなった。
|