研究概要 |
農業用殺菌剤ジクロシメットは、イネいもち病菌に対し、付着器メラニン合成を阻害すると同時に胞子形成の抑制を示した。さらに、薬剤含有培地上で形成された胞子は、紫外線感受性の増加と耐熱性の低下を示すことを見出した。ジクロシメットのこれらの作用は、同剤の圃場での長期間にわたるイネいもち病防除効果の維持に貢献していると考えられた。ジクロシメットの示す胞子の耐熱性低下とメラニン合成阻害作用との関係を明らかにするため、メラニン合成欠損株および薬剤耐性株をもちいて解析した。その結果、耐性株では、メラニン合成阻害がなくなると同時に胞子の耐熱性低下も消失したことから、耐熱性とメラニン阻害に関連があると推定された。アカパンカビでは、メラニン化は有性器官に特異的に観察され、強度にメラニン化した子嚢胞子は70℃でも生存した。一方、非メラニン化胞子に耐熱性は認められなかった。このことから、メラニンと耐熱性の関連が示唆された。アカパンカビのメラニンは植物病原菌とおなじDHNメラニンであることを、阻害剤処理による中間代謝物の同定から明らかにした。さらに、メラニン合成系遺伝子として、3種類のPKS, SDH, HNR遺伝子をクローニングした。アカパンカビのper-1株は、メラニンを欠損しており、その子嚢胞子は耐熱性を示さなかったが、野生株のPKS遺伝子を形質転換すると、メラニン化と耐熱性が回復した。さらに、その変異をPKS遺伝子内に同定した。また、アカパンカビのメラニン合成誘導は、窒素源の欠乏ではなく、交配により誘導されることを、メラニン合成中間体およびmRNAの解析から明らかにした。
|