研究概要 |
蚕28S rRNA中のGTPaseドメインの塩基配列を解析したところ、全生物で共通と考えられてきた塩基U-1094とA-1098(塩基番号は大腸菌23S rRNAの命名法に準じる)がそれぞれCとGに変化していた。他の昆虫の塩基配列も解析し、この塩基置換が、鱗翅類昆虫の特徴であることを明らかにした。この塩基置換により、rRNAの高次構造は不安定化するが、この部位に結合するリボソームタンパク質P0,P1,P2,およびeL12により安定化することを示した。これらリボソームタンパク質によるRNA構造調整の仕組みを解析した結果、P1-P2ヘテロダイマーの形成が引き金になり、安定なP0-P1-P2複合体を形成し、これがeL12と協調的にrRNAに結合し、不安定なRNA構造を安定化することを明らかにした。また、大腸菌リボソーム上の相同タンパク質と蚕タンパク質との置換実験により、上記タンパク質結合によりリボソームのGTPase機能が誘発されることを実証した。これらの実験で、蚕のリボソームタンパク質は他の動物種からのタンパク質と比べ扱いやすく、リボソームタンパク質の機能解析に優れた材料であることが判明した。蚕型塩基配列のリボソーム機能への効果を探る目的で、大腸菌rDNA(rrnB)を含むプラスミド中に蚕型のC-1094とG-1098を導入し、大腸菌を形質転換した。形質転換体から得られたリボソーム中に蚕型RNA配列が含まれ、蚕型配列を導入した大腸菌23SrRNAにも細胞中でリボソームタンパク質が結合し、リボソーム粒子形成が正常に起こることを示している。得られた蚕型RNA配列を含むリボソームの機能解析が今後の研究として残された。
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