大腸菌SRP RNA、4.5S RNAは、114塩基から構成され、分子の中間点で折れ曲がったヘアピン様構造をとる。ヘアピンは、完全には塩基対合しておらず、所々、膨らんだバルジといわれる非対合部分が存在する。特徴的なバルジ構造は、5カ所存在しており、配列は異なるが、4.5S RNA相同分子と考えられている他の生物のRNAにもこの構造は保存されていた。従って、塩基配列に比べ、2次構造が、これらのRNAの機能にとって重要であることが示唆された。大腸菌4.5S RNAは、菌体内において、翻訳と蛋白質合成といった2種類の異なる現象に関与することがわかっていた。この多機能性は4.5S RNAが、生体内において2種類の蛋白質、Ffh蛋白質およびEF-G蛋白質と結合することにより、実現されることを、著者らは明らかにしていた。しかし、4.5S RNAとこれら蛋白質の結合の詳細については、不明であった。本研究では、大腸菌4.5SRNAの種々の欠損変異株を作成し、(1)大腸菌4.5S RNA欠損変異株における増殖能の回復活性、(2)精製した蛋白質(Ffh蛋白質、および、EF-G蛋白質)に対する結合活性、を指標にして機能を評価した。その結果、どちらの活性にも、バルジ構造が必要であることを示した。さらに、機能を消失した変異株と野生型4.5S RNAについて、NMRによる高次構造解析を行ったところ、基本的な構造には大きな変化は見られなかったが、1塩基置換により、この変異体では、バルジ構造が消失していることを明らかになり、先の結果を構造面からも裏付けできた。この研究成果は、種々の生物で、SRPRNAの構造が異なるのに、なぜ、機能面では相補が可能であるかというこれまでの疑問に答えをだすものである。
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