大腸菌の細胞増殖を制御する新たな因子を見い出し、その分子レベルのメカニズムを明らかにすることを目的として、DNA、RNA結合タンパク質Hfq(hfq遺伝子産物)による細胞複製制御機構の解析を行った。これまでに大腸菌hfq変異株は、鉄イオンの取り込み系タンパク質FepAとFhuEを過剰発現し、過酸化水素のような酸化ストレスに対して高感受性を示すことが明らかとなっていた。そこで、生理的に酸化ストレスが誘発されるといわれている静止期におけるhfq変異株の状態を解析した。変異株は静止期において速やかにその生存率が減少することを見いだした。SOSレポーター遺伝子sfiA-lacZの発現から、変異株では静止期において高いレベルのSOS反応が誘導されており、DNA損傷が引き起こされていることが示唆された。常磁核磁気共鳴法による細胞内鉄イオン濃度の測定により、変異株では高濃度の鉄イオンが細胞内に蓄積していることが示された。また精製Hfqタンパク質は、試験管内でFenton反応により誘発したDNA損傷を抑制した。これらのことからHfqタンパク質は、鉄イオンの取り込み系タンパク質の発現調節により鉄イオンにより誘起されるラジカルの発生を抑えるとともに、DNAに直接結合してラジカルによるDNA損傷を抑制することにより、静止期における細胞の生存維持に寄与していると考えられた。
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