DNA、RNA結合タンパク質Hfq(Hfq遺伝子産物)による細胞複製制御機構の解析を行った。hfq変異株は、鉄イオンの取り込み系タンパク質FepAとFhuEを過剰発現し、過酸化水素のような酸化ストレスに対して高感受性を示した。常磁核磁気共鳴法による細胞内鉄イオン濃度の測定により、変異株では高濃度の鉄イオンが細胞内に蓄積していることが示された。また精製Hfqタンパク質は、試験管内でFenton反応により誘発したDNA損傷を抑制した。これらのことからHfqタンパク質は、鉄イオンの取り込み系タンパク質の発現調節により鉄イオンにより誘起されるラジカルの発生を抑えるとともに、DNAに直接結合してラジカルによるDNA損傷を抑制することにより、静止期における細胞の生存維持に寄与していると考えられた。Hfqによる遺伝子発現制御機構を解析するために、hfqと各種RNA分解酵素との相互作用について調べた。ams1(温度感受性RNase E)変異株に対してhfq::cat変異を導入した結果、asm1変異株の増殖の温度感受性が部分的ながら抑制された。ams1 hfq::cat二重変異株にさらにmg::cat変異を導入したところ温度感受性の抑制が解除された。FtsZ、FepA、FhuEタンパク質以外にHfqタンパク質による発現制御を受けているタンパク質を検索するために、hfq::cat変異株の全タンパク質を細胞質、内膜、外膜に分画して野生株と比較したところ、外膜画分においてhfq::cat変異株で発現量に変化の見られるタンパク質を3種見いだした。現在これらのN末端のアミノ酸配列を決定しているところである。
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