本研究は、Bacillus circulans WL-12のキチナーゼA1をモデルとして、細菌キチナーゼによる結晶性キチン分解機構を解明することを目的としている。キチナーゼA1は3種、4つのドメインから構成されるキチナーゼで、これまでの研究によって活性ドメインとキチン吸着ドメインの立体構造が決定されている。以下に述べるように、平成12年度の研究によって、結晶性キチン分解に必須の構造が活性ドメインに存在することが証明された。 1)基質結合クレフトに存在する芳香族アミノ酸の機能 キチナーゼA1の基質結合クレフトには7つのサブサイトが存在する。これらのサブサイトに存在する芳香族アミノ酸の機能を調べるために、部位特異的によってアラニンに置換し、性質の変化を解析した。その結果マイナス側のサブサイトの芳香族アミノ酸が、結晶性キチン分解に必須であることが明らかとなった。このことから、結晶性キチンからのキチン鎖はマイナス側から導入され、そこに存在する芳香族アミノ酸がキチン鎖の保持とクレフト内の移動に重要な役割を果たしていることが強く示唆された。 2)活性ドメイン表面に存在する芳香族アミノ酸の機能 キチナーゼA1の活性ドメイン表面に、基質結合クレフトの延長線上に並んでいる2つの芳香族アミノ酸が見いだされた。これらのアミノ酸残基をアラニンに置換し、性質の変化を解析した。その結果、結晶性キチンの分解活性のみが顕著に低下した。この結果と立体構造上の位置から、活性ドメイン表面に存在するこれらのアミノ酸残基は、キチン結晶表面からキチン鎖をひきはがし基質結合クレフトに導入する役割を果たしていることが強く示唆された。
|