本研究課題は、発芽イネ種子におけるデンプン-ショ糖転換調節機構の解明と発芽力制御技術の確立を目指した。本研究期間においては以下のような研究成果が得られた。1.発芽イネ種子におけるα-アミラーゼおよびUDP-グルコースピロホスフォリラーゼ(UGPase)の組織、時期、ホルモン特異的発現調節:UGPaseの発現は発芽過程における時期特異性は認められなかった。α-アミラーゼII-4の発現は発芽初期においては胚盤組織および幼芽鞘で見られ、伸長生長開始期においてはα-アミラーゼI-1と同様にアリューロン層で起こることが分かった。また、アリューロン層におけるα-アミラーゼII-4分子の発現はそのプロモーター領域にジベレリン(GA)応答シス因子がないのにも関わらずGAによって誘導され、さらに、その誘導はCa^<2+>およびカルモデュリンを介した転写後調節によるものであることが明らかになった。2.α-アミラーゼ発現の転写調節におけるヒストンアセチル化の関与:ヒストンデアセチラーゼの阻害剤であるトリコスタチンA(TSA)を用いた実験から、アリューロン層におけるα-アミラーゼ遺伝子の転写調節にヒストンアセチル化が関与していることが示唆された。3.胚盤組織のプロテオーム解析:胚盤組織タンパク質において、吸水の時間経過とともに発現が誘導され、アブシジン酸(ABA)によって発現が促進されるタンパク質をリストアップしたところ、これらには解糖系酵素が多く含まれていた。上述の解糖系酵素と同様な発現様式を示すGS-129スポットについてその特性を調べたところ、GS-129は細胞壁に強く結合し、N-結合型およびO-結合型糖鎖を持つ糖タンパク質で、キシラン分解活性を有することが示唆された。今後は、GS-129を含め糖代謝関連酵素を中心に胚盤組織において発現がホルモンによって変化するタンパク質のセンスあるいはアンチセンス遺伝子を導入した形質転換体の発芽機能を解析し、発芽力制御技術の開発を進める予定である。
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