ショウジョウバエ体節極性決定遺伝子porcupine(porc)に欠損を持つ3令幼虫の原虫基では、分泌性形態形成因子Wntファミリーの一員であるWingless(Wg)のアスパラギン結合型糖鎖修飾が不完全になること、また逆に原虫基でporcを過剰発現させるとWgの糖鎖修飾が促進されることを先ず見い出した。そこで、Wgの糖鎖修飾に焦点をあてショウジョウバエS2細胞を用いた実験を行った。Wgはタンパク質翻訳と同時に分子内ジスルフィド結合を形成するために糖鎖修飾が阻害され、PorcはWgのタンパク質翻訳後の糖鎖修飾を促進することを明らかにした。タンパク質翻訳後の糖鎖修飾過程では、アスパラギン結合型糖鎖修飾部位(NXS/T)のOST複合体(小胞体膜に存在する)による認識が律速段階となる。したがって、PorcはWgのアミノ末端ドメインに結合し、さらにWgを小胞体膜にアンカーすることによりNXS/T部位のOST複合体による認識を促進させる機能を持つと考えられる。PorcはショウジョウバエHed gehogのパルミチン酸化に働くSkinny hedgehogと同様、膜結合型アシル基転移酵素ファミリーに属することから、WgがPorcによりアシル化され小胞体膜に強く結合する可能性が示唆される。 また、我々はマウス及びアフリカツメガエルのporc相同体を単離し、これらにはaltenative splicingにより4種類のmRNA(A-D)が存在することを明らかにした。さらに、発現するmRNAのタイプが発生段階及び成体組織によって異なることを見い出した。例えば、成体脳ではDタイプが主に発現しており、肺や精巣ではAタイプが強く発現している。これら4種類のmRNAによってコードされるマウスPorc相同体(MporcA-D)タンパク質は、様々なマウスWntタンパク質とショウジョウバエWgの糖鎖修飾を促進する。さらにこれらは、ショウジョウバエporc変異株胚の表現型をレスキューすることから、Porcファミリーの機能は進化上極めて良く保存されていると結論できた。
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