研究概要 |
トランスグルタミナーゼ(TGase)は、カルシウム依存的に蛋白質のグルタミン残基とリジン残基との間にイソペプチド結合を形成する反応を触媒する。この生理的意義は、血液凝固、細胞死、形態形成、細胞外マトリクスの強化と幅広い。TGaseはヒトにおいてはこれまで9種のアイソザイムの存在が報告されているが、表皮細胞には主にTGase1,TGase3が存在する。皮膚表皮の形成は、深層の未分化な前駆細胞が分化して、角化した表皮細胞として表層に押し出されることによって達成される。この分化に伴い、細胞内蛋白質がTGaseにより共有結合的に架橋され、硬度化(角質化)が生じ、外部に対し強力なバリアーとして機能する。表皮細胞のTGaseは、未分化な段階では不活性な前駆体型で存在し、分化に伴い限定分解され、活性型に変化して活性を有する。その際のプロテアーゼや切断後の活性化調節機構は不明であった。 我々はバキュロウイルス-昆虫細胞を用いた独自の生産系の確立に成功して、いくつかの生化学的諸性質を明らかにしてきた。前駆体型のTGase組換え蛋白を用いて、活性化酵素を検索した。また皮膚表皮に特異的に存在する低分子化合物についても、TGaseに対する活性効果を解析した。さらにTGase3の組織分布についてもRT-PCR法、および免疫学的手法を用いて明らかにした。TGase1は、細胞内カルシウム依存性プロテアーゼ(カルパイン)による限定分解を受け、触媒反応に必要なカルシウムの感受性が上昇する。一方、TGase3は、表皮組織中に存在する新規なカルシウム依存性のプロテアーゼで限定分解を受ける。また、TGase3はGTPによる活性阻害を受ける事が判明した。組織分布については、TGase3は表皮の他、神経系細胞、脾臓、精巣などにも存在する事をはじめて明らかにした。
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