研究概要 |
細胞が"非自己である"または"危険である"ということを生体防御機構の免疫系に知らせるには,常にMHCクラスI分子に依存するとは限らない。細胞が受ける種々のストレスに応答して発現される分子が"危険信号"として関与する機構も考えられる。本研究では,ストレス誘導型発現分子である熱ショックタンパク質(Hsp)の免疫学的機能と自然免疫系との相互作用について解析を試みた。 まず,Hsp分子が生細胞の表面上に危険信号として提示される機構が存在するのかについて考察した。ハプロタイプH-2^b系統マウスC57BL/6由来のルイス肺癌カルシノーマLL/2細胞を42℃で2時間処理し4時間の回復期をおいた後の生存率はトリパンブルー染色において99%以上であり,熱処理細胞において顕著なhsp72の誘導がウエスタンブロッティング法により観察された。細胞表面上に提示された誘導型hsp72の検出は,死細胞の核に特異的に取り込まれるヨウ化プロピジウムで染色することによって生細胞と死細胞を区別し,抗hsp72モノクローナル抗体を用いたフローサイトメトリー法(FCM)によって行った。その結果,熱処理していない生細胞でもその約16%が,熱処理を施すことにより約32%の細胞がhsp72を表面提示することが観察された。また,ヒト細胞株K-562についても同様な結果が得られ、ある種の腫瘍生細胞において通常細胞内にしか誘導されないと考えられていたhsp72が特殊なストレス条件下で細胞外に提示される機構が存在することを明らかにした。 次に,自然免疫系の細胞群との結合を調べるために,プローブとなるhsp72分子を大腸菌発現により調製した。hsp72をビオチン化した後,C57BL/6マウスの牌細胞との結合についてFCMで解析したところ,hsp72は脾細胞と結合し,全脾細胞中の約36%が陽性を示した。結合した細胞のポピュレーションを検討したところ,hsp72を結合する細胞のほとんどが,CD3εに対して陰性であるのに対してMHC classIIに陽性であったことから,T細胞群ではなく抗原提示能を有する細胞群に属することが判明した。
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