本研究は、初期生体防御系(自然免疫系)におけるストレスシグナルの受容機構を明らかにする目的で行われ、Hsp70の構造と免疫学的機能について以下に示す結果が得られた。 分子シャペロンのなかで熱ショックタンパク質70(Hsp70)を取り上げた。最初に、小胞体のHsp70であるBiPと実際の変性タンパク質(セルピンである卵白アルブミンの熱変性分子)との相互作用について調べた。その結果、BiPが結合するペプチドはタンパク質が熱変性すると分子表面に露出する疎水性ペプチドで、その相互作用はK_d値が0.5μM程度であることを見出した。 次に、自然免疫系の細胞がHsp70を認識するためのHspの構造的特徴を明らかにした。マウス誘導型Hsp72とその変異体タンパク質を大腸菌で発現させた。Hsp72のC末端αヘリックス領域はオリゴマーの形成と機能制御に関与していることが明らかとなった。組換体をプローブとして、株化された培養細胞およびマウス由来の脾細胞や腹腔マクロファージとの結合ならびにその認識部位について解析した結果、Hsp72は、マクロファージや樹状細胞、NK細胞などの自然免疫担当細胞、B細胞の抗原提示細胞と結合した。 さらに、培養細胞P388D1においてHsp72と相互作用する受容体分子の検索を試みた。プロテアーゼ処理した細胞へのHsp72の結合を解析したところ、プロテアーゼKおよびトリプシン消化した細胞へのHsp72の結合が有意に低下したため、受容体はタンパク質性であることが示された。細胞への結合を阻害するような化合物を探すことによって、その特徴から受容体の候補を検討したところ、Hsp72に対する受容体はスカベンジャー受容体の一種であるか、あるいはスカベンジャー受容体と似た結合特性を持つ他の受容体である可能性が示唆された。
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