研究概要 |
β-アミラーゼの至適pHおよび生澱粉分解能などの酵素機能を改変し、産業的により優れた酵素を設計するために、それらの変異体の作成と機能評価およびX線結晶構造解析による構造評価を行った。 【1.Bacillus cerus β-アミラーゼの至適pHの変換】 植物β-アミラーゼはpH5.5付近の酸性側に、微生物β-アミラーゼはpH7付近の中性に至適pHがある。以前に行ったダイズ酵素の至適pHの変換の結果から至適pHは触媒残基の一つであるGlu380とその周辺のアミノ酸残其の側鎖との水素結合により制御されていることが示された。そこでBacillus cerus β-アミラーゼの触媒残基の周辺に存在するTyr164とThr324をダイズ型のGluとAsnに変換した変異体を作成した結果、その至適pHはいずれもpH4-5付近まで低下していた。これらの変異体の結晶を作成し、マルトースとの複合体のX線結晶構造解析を2,0Å分解能で行った。その結果、ダイズ酵素で認められた触媒残基との水素結合は形成されていなかった。このことは触媒残基の制御に水素結合のみが関係しているのではなく、近傍アミノ酸残基の電荷および酸素原子との距離が重要であることが示唆された。この点について、これらのアミノ酸残基をさらに異なるアミノ酸に置換して検討する予定である。 【2.デンプン吸着能強化Bacillus cerus β-アミラーゼの発現とそのX線結晶構造解析】これまでの研究によってBacillus cerus β-アミラーゼのC末端デンプン吸着ドメインの2個のデンプン吸着サイトの1個は機能していないことが示された。そこでこのサイト部分のアミノ酸配列をグルコアミラーゼあるいはシクロデキストリン合成酵素の対応する配列に置換した変異体を設計し、大腸菌での発現を試みたが、発現量が極端に減少した。これはこの配列部分がメインドメインとの接触領域にあり、変異により酵素の正常な折れたみが影響を受けることが原因と考えられた。
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