産業的により優れた機能を持つβ-アミラーゼを開発するために、ダイズβ-アミラーゼ、オオムギβ-アミラーゼ、及びBacillus cereusのβ-アミラーゼのドメイン構造の徹底的な構造比較を行い、本酵素の至適pHの変換およびデンプン粒分解活性の強化について、変異酵素を設計し、その機能解析とX線結晶構造解析を行った。 【1.Bacillus cereus β-アミラーゼの至適pHの変更】 ダイズβ-アミラーゼの触媒残基のひとつであるGlu380の側鎖と水素結合を形成する3個の残基の微生物型への改変により至適pHがそれぞれアルカリ側に移行したことから、逆にBacillus cereusのβ-アミラーゼの対応するTyr164とThr328をダイズ型のGluとAsnに変異した結果、至適pHがやはり酸性側に1pHユニット以上移行することを認めた。しかし、その原因が触媒基であるGlu367の側鎖との水素結合の有無によるのか、周辺の静電的環境によるのか不明であった。そこで、本酵素のTyr164をGln164へ変異した結果、至適pHがやはり酸性側に移行し、マルトース複合体のX線結晶構造解析の結果では触媒基との水素結合は認められなかったことから高至適pHであるためには164番目がTyrであることが重要であると示唆された。また、Thr328のAsn328への変異によって、ダイズ酵素のGlu380に対応するGlu367の側鎖が約1PÅ移動し、このことにより比活性が約8%まで低下することがX線結晶構造解析の結果明らかになった。 【2.微生物β-アミラーゼのデンプン粒分解活性の強化】 Bacillus cereusのβ-アミラーゼのC末端に存在するデンプン吸着ドメインについて、グルコアミラーゼのデンプン吸着ドメインとの比較から2個存在するデンプン吸着サイトのうち2番目のサイトに欠陥があると考えられたので、その修復変異を試みたが、その部分が触媒ドメインとの接触領域にあるため、大腸菌での発現率が極端に低下した。そこで、進化工学的手法を導入し、得られた酵素の機能解析と構造解析を行うこととし、現在、変異酵素のスクリーニング系の確立を行っている。 【3.β-アミラーゼの原子レベル分解能での予備的X線結晶構造解析】 酵素の比活性の変化等、触媒部位での微小な位置変化を問題にする場合、2Å程度の構造解析では精度が不足し、構造変化から機能変化を論じることはできない。このためには結晶の分解能を向上し、1Å以上の分解能で構造を決定する必要がある。そこで、ダイズβ-アミラーゼの結晶化条件を検討し、放射光で測定をおこなうことにより、現在1.25Å分解能での構造の精密化を行うことができた。今後、末端残基の削除等の変異により更に結晶の分解能を改善し、より高分解能のデータを収集し、水素原子の位置をも明らかにする予定である。
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