研究概要 |
一部の放線菌では、テルペノイド化合物の共通出発原料であるイソペンテニル2リン酸(IPP)の生合成経路として、従来から知られていたメバロン酸経路と、近年原核生物や植物の色素体にその存在が見出された非メバロン酸経路の両方を持つことが知られている。本研究では、両経路を有し、ジテルペン抗生物質であるテルペンテシン(Tp)を生産する放線菌Streptomyces griseolosporeusを用いて、両経路に関与する遺伝子群とTp生合成遺伝子を取得・解析することにより、放線菌に於けるテルペノイド化合物の生合成に関与する遺伝子群の全体像を明らかにすることを目的とした。 (1)メバロン酸経路遺伝子群;Tpが主としてメバロン酸経路で生合成されることを利用し、Tp非生産株の中から、3-hydroxy-3-methylglutaryl CoA reductase(HMGR)欠損株を見出した。本菌株の宿主・ベクター系を確立後、相補によりHMGR遺伝子を取得した。本遺伝子の周辺領域を探索した結果、メバロン酸経路に関する遺伝子群、すなわち、geranylgeranly diphosphate(GGDP)synthase、mevalonate kinase、mevalonate diphosphate decarboxylase、phosphomevalonate kinase、新しいタイプのIPP isomerase、HMGR、3-hydroxy-3-methylglutaryl CoA synthaseがこの順序でクラスターを成していることが判明した。なお、見出された遺伝子群は、それらを異種宿主で発現させる方法、及び組換え酵素を用いた酵素活性測定により同定した。 (2)テルペンテシンム生合成遺伝子群;放線菌では、殆どの場合抗生物質生合成遺伝子群は、染色体上でクラスターを成している。メバロン酸経路遺伝子クラスター内に、Tpの直接前駆体となるGGDPの生合成遺伝子が見出されたことから、更に上流の遺伝子を解析した。その結果、植物やカビ由来のジテルペンサイクラーゼに相同性を有するORF1と放線菌由来のセスキテルペンサイクラーゼに相同性を有するORF2を見出した。染色体上のこれらの遺伝子を個別に破壊した結果、何れもTpの生産性が消失したこと、また両遺伝子をGGDP synthaseとともに異種宿主であるS.lividansで発現させた結果、Tpと同じ基本骨格を有するent-clerod-3,13(16),14-triene(terpentetrieneと命名)が生産されたことから、両遺伝子産物はTp生合成に必須なジテルペンサイクラーゼであることが分かった。本サイクラーゼは、筆者の知る限り、原核生物起源としては初めてのジテルペンサイクラーゼである。
|