コケ培養細胞にイソプレノイド系化合物の種々の前駆物質を投与し、細胞質で主として合成されるセスキテルペン(C-15化合物)と葉緑体で合成されるクロロフィルのフィチル側鎖(C-20化合物)を指標にそれぞれの生合成におけるメバロン酸と非メバロン酸経路の関与を相互に比較し、その生物的な意味について推察した。タイ類シダレゴヘイゴケ(Ptychanthus striatus)培養細胞にメバロン酸を投与し、セスキテルペンとフィチル側鎖に取り込ませたところ、セスキテルペンには効率よく取り込まれたが、フィチル側鎖への取り込みは低く、葉緑体内で合成されるイソプレノイド生合成におけるメバロン酸経路の寄与は低いことが分かった。また、フィチル側鎖の標識パターンから外部投与のメバロン酸は一つおきに導入されたことから、葉緑体膜のイソプレノールピロリン酸類への透過性や鎖長延長の多様性が示唆された。また、[1-^<13>C]グルコースの投与実験では、フィチル側鎖の標識位置と取り込み率から、メバロン酸/非メバロン酸の寄与率は9:1程度と推定された。また、ツクシウロコゴケ(Heteroscyphus planus)培養細胞を用いた、セリンの投与実験でもメバロン酸経路と非メバロン酸経路の寄与を区別できることが分かった。ツノゴケ類培養細胞へのメバロン酸の投与実験で、ツノゴケにおいてもファルネシルピロリン酸が葉緑体膜を透過し、ゲラニルゲラニルピロリン酸へ鎖長延長していく可能性が示唆された。
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