長期的視点に立てば、希少な触媒資源を散逸的に消費し、また石油などの化石燃料を基盤とするような化学合成は、生命活動そのものに伴う触媒作用や生産物によって代替してゆくことが、人類に課せられた大きな命題である。本課題期間では、生体内で重要な情報伝達を担っている複合糖質関連化合物、および生理活性天然有機化合物を標的物質とし、これらの化合物やその合成中間体の大量供給を可能とする実用的な合成経路、特に、鍵段階となる微生物・酵素触媒反応の新しい機能を開発することを試みた。さらに、出発原料は、天然界から、動植物の生物生産によって容易かつ大量に得られる原料や発酵生産産物などに求めた。具体的には、1)酵母還元を利用する光学活性物質の合成-逆プレローグ則酵素の利用;2)酵母還元を利用する光学活性物質の合成-速度論的光学分割と非対称化;3)リパーゼを用いる加水分解反応・エステル化-速度論的光学分割の利用;4)糖鎖関連物質への酵素-化学的アプローチ:N-アセチルグルコサミニル-cbz-アスパラギンの合成;5)生物蝕媒反応-化学合成法の相補的、相乗的活用、について検討し、所定の成果を得た。 上記の例は、いずれも「生物資源と生物資源触媒との相補的・相乗的利用による有機合成」を達成したものである。本研究を通じて、選択性、反応性の高い酵素反応の探索、それが最大限に活かされるような反応経路の設計、中間体合成のための新反応の開発に関する重要な多くの知見を得ることができた。
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