研究概要 |
炭素数18以上の長鎖脂肪酸が哺乳類のDNAポリメラーゼを阻害することが報告されている。特に,ネルボン酸(NA)のようなcis型不飽和脂肪酸が,DNAポリメラーゼβ(Polβ)のN末端8kDaに1:1で結合し,活性を阻害する。今回我々は、NAは同様にヒト免疫不全症候群ウィルス(HIV-1)の逆転写酵素(RT)も阻害することを見出した。PolβはDNA依存性DNA鎖伸長とRNA依存性DNA鎖伸長を触媒し、一方RTはウィルス性のRNAゲノムを2本鎖DNAにする時の活性,1)RNA依存性DNA鎖伸長,2)RNaseH活性,3)DNA依存性DNA鎖伸長の3つの活性を持っている。従って両酵素には機能的な類似性を有し,DNA鎖の複製・修復・組換えをふくむ細胞の活動に必須である.PolβとHIV-1RT間の立体構造と機能との関連について新しい知見を得るために,NAとPolβの8kDaドメインとの相互作用に関してのNMRデータを利用し、HIV-1RTに対するNAの結合部位の探索を行った。その結果、PolβとHIV-1RTのアミノ酸配列はまったく違うものの,3次元レベルでPolβとHIV-1RTに対するNAの結合部位の相似性が見出された。PolβがNAと結合する際にNMRの化学シフトが大きくシフトした4つの残基(Leu11,Lys35,His51,Thr79)が,結合に直接関わっているものと仮定し,この4つの残基の空間的配置と類似の空間的配置が,HIV-1RTに存在するか否かを探索した。その結果,分子進化学的手法を用いて最も保存しているアミノ酸残基を調べると,51kDaサブユニットの65番目の残基のみが100%保存していた。よって、51kDaサブユニットのLys65,Leu100,His235,Thr386の4点が結合部位であると判断した。
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