我々は植物が持つ化学的病虫害自己防御機構のなかで特に病害防御に関わる化学物質を探索し、従属栄養期の黄化芽生えイネ(インデイカ型栽培種RD-25)の根部および根表面にアルキルレゾルシノール(ARs)という強い抗菌活性を示すフェノール化合物が高濃度に生成・蓄積することを明らかにしている。本抗菌物質の病害に対する機能を明らかにするとともにこれを病害防御へ応用することを最終目標に、イネARsの生成・蓄積制御機構の解明を行った。前年度は13種のジャポニカ型栽培イネについてARsの同族体組成と総蓄積量について調べ、試験した全てのジャポニカ種はその蓄積量はいずれもインデイカ種より低レベルで、そのうち蓄積量がインデイカ種の0.1〜0.4%と極端に低いイネ品種(ササニシキ、コシヒカリ、新2号)の組成は他の日本在来型およびインデイカ型真性抵抗性遺伝子を持つ品種と大きく異なることを明らかにした。 本年度はイネ芽生えを用いたARsの生合成研究を行った。その結果、(1)基質無添加試料から、新たに偶数および奇数炭素のアルキル側鎖を持つARの微量同族体を検出(2)脂肪酸エステル基質の添加により、添加した脂肪酸より1個短い鎖長を持つAR同族体が特異的に増加し、その増加率は無処理の数倍から数千倍(3)増加率は基質濃度に依存(4)AR微量同族体のアルキル側鎖は直鎖構造(5)主要同族体であるAR13:0の生成もtetratadecanoic acid基質の添加により約25%増加(6)[1-^<13>C]-tridecanoic acid基質から生合成したdodecylresorcinolの構造を各種の機器分析により、[5-^<13>C]-dodecylresorcinolと同定した。 以上の結果、脂肪酸分子がARs生合成のスターター分子であるということを初めて実証することができた。
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