研究概要 |
従属栄養期の黄化芽生えイネの根部及び表面に高濃度で蓄積する抗菌物質アルキルレゾルシノール(ARs)の植物病害に対する機能を明らかにするとともにこれを病害防御へ応用することを最終目標に、イネARsの生成・蓄積の制御機構の解明を行った。 (1)ARsの病害防御作用:イネいもち病菌を用いたin vitroの胞子発芽および菌糸成長に対する生物試験と、ARsを極微量しか生成・蓄積しないイネ(ササニシキ)を用いたin vivoの病害防御試験結果から、ARsが病害防御機構の一端を担っていることが示された。 (2)ARsの代謝経路の解明:光を照射した黄化芽生えからアルキル鎖の二重結合が酸化解裂したレゾルシノール(AR-A8,AR-A10)を新規物質として単離・同定するとともにAR-AsのARsからの生成機構についても推定した。この過程で、新たに二重結合の位置異性体を同定した。 (3)ARs同族体の差異に基づいたイネ品種の分類:ARsの同族体組成と総蓄積量を13種のジャポニカ型栽培イネについて調べた。ARs同族体組成は真性抵抗性遺伝子型と相関性があり、ARs同族体組成がイネ品種の分類に有用であることを示した。ジャボニカ種の蓄積量はいずれもインデイカ種より低レベルであった。特に、蓄積量がインデイカ種の0.1〜0.4%と極端に低い3品種の組成は他の目本在来型およびインデイカ型真性抵抗性遺伝子を持つ品種と大きく異なることを明らかにした。 (4)ARsの生合成研究:ARsの生合成仮説では3個のC2ユニットが脂肪酸に縮合し、環化・脱炭酸して生成する。奇数鎖の脂肪酸エステル基質を添加したイネ芽生えのARs生合成系で、生合成仮説に合致するAR同族体が特異的に増加したことより脂肪酸が前駆体であることを示唆した。[^<13>C]で標識した基質の取り込み実験より、脂肪酸分子がARs生合成の前駆体であるということを確認した。
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