日常的に摂取する食品中に存在する成分が、生体高次機能を司る様々な細胞群に作用することにより、我々の健康増進に貢献することを、我が国の食品生化学者を中心とするグループが世界に先駆けて次々と明らかにしている。本研究では、食品中に存在するアミノ酸成分による脳機能の増強効果の解明を試みた。 実験材料としてマウスの大脳皮質を用い、神経回路の形成過程に及ぼすアミノ酸成分の働きを解析した。神経回路の形成機構において、グルタミン酸受容体の一種であるNMDA型受容体が主要な役割を果たしていることが既に知られている。ただし、この受容体は通常不活性型となっているため、活性化に際して2次的なシグナルを必要とする。この2次的なシグナルを誘起するアミノ酸受容体として、γアミノ酪酸受容体およびグリシン受容体が候補として挙げられた。実験の結果、グリシン受容体の拮抗薬であるストリキニーネを用いた場合にのみ、NMDA型受容体を介した細胞シグナリングが阻害されることが判明した。 本研究により、大脳皮質神経回路の形成過程において、アミノ酸受容体の一種であるグリシン受容体が必須の役割を果たしていることが世界で始めて示された。このグリシン受容体に結合するアミノ酸としてグリシンのほかにもタウリンおよびβアラニンが知られている。これらのアミノ酸が神経回路の形成過程を促進することにより脳機能の増強に貢献していることが推察される。
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