日常的に摂取される食品成分群の中に、生体高次機能を司る様々な細胞に対して作用し、我々の健康増進に貢献する機能性成分が数多くあることを、我が国の食品生化学者を中心とするグループが世界に先駆けて次々と明らかにしている。本研究において、発達期のマウス大脳組織を用いた神経生理学的スクリーニング解析を行い、含硫アミノ酸の一種であるタウリンに、脳回路の形成に対する促進作用があることを世界で始めて見出した。これまでは、脳のはたらきは、年をとるとともに衰える一方であると考えられてきたが、大人の脳回路においても、発達し続ける潜在能力が備わっていることを、我々も含め、多くの発達脳科学者らが示してきている。このため、発達期の脳において見出されたこの種の現象は、大人の脳においても十分にあてはまる普遍的な原理であると思われる。大人においても、タウリン投与により脳回路の発達あるいは再生が誘導されることが推定される。通常、脳血管関門のために、アミノ酸は脳内に拡散的に侵入することはできないが、タウリンに限っては、特異的な輸送体タンパクが、脳血管関門に存在しているため、容易に脳内に移送される。すなわち、経口的に摂取されたタウリンは、腸管・門脈系を経て血流に移行し、そして脳脊髄液中に容易に取り込まれることが推定される。食事中からのタウリン摂取により、加齢により衰えた神経ネットワークの機能が、再生可能であると思われる。 少子高齢化社会を向かえた我が国において、高齢者の健康管理が重要な問題として位置付けられている。体力とともに、脳のはたらきも高いレベルで保っておきたいと、老いを前にした人たちの多くが、そう願っている。本研究によって、含硫アミノ酸の一種であるタウリンに、脳回路の再生を誘導するはたらきがあることが示唆されたことは、食品科学・栄養科学分野の研究として、非常に意義深いものと思われる。
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