この基盤研究(C)に公募する前の段階において、inhibitory proteinのα-isoform(IκBα)がTaurine chloramine(タウリンクロラミン、TauC1)による細胞処理で何らかの修飾を受け、刺激に呼応するIκBαの分解が阻害され、最終結果としてnuclear factor κB(NFκB)の活性化を阻害すること、及びその分解阻害がIκBの塩素化に起因するのではないかという予備的知見を持っていた。そこで、まず塩素化されるアミノ酸残基を決定する実験から、この研究を開始した。アミノ酸残基のなかで最も塩素化され易いのはTyr残基で、IκBαには8ヶ所のTyr残基がある。これらTyr残基をクンケル法でAla残基に変換していったが、8個全てをAlaに変えてもウエスタンブロットでバンドシフトとして観察されるIκBαの修飾は消失しなかった。同様な実験を次に塩素化され易いTrp残基に関しても試行したが、バンドシフトにはこの残基も関係しないことが分かった。そこで、IκBαのdeletion mutantを作製して、どのアミノ酸残基が修飾を受けているか検討した。その結果、45番目のMetが修飾を受けることが分かった。次に、45番目のMetを含む8個のアミノ酸から構成されるIκBαの部分的なペプチドを作製し、TauClで反応後HPLCとマススペクトルで分析した。その結果、MetはTauClで参加されサルフォキサイドになっていることが分かった。このサルフォキサイド化がIκBαのバンドシフトを起こすこと、刺激に呼応するIκBαの分解が阻害されること、その結果としてNFKBの活性化を阻害されることが分かった。この研究結果は細胞内情報伝達のなかには、蛋白のMet残基の酸化もあるということを示すとてもユニークなものであった。
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