多くの抗がん剤が癌細胞にアポトーシスを誘導することが知られているおり、アポトーシス誘導物質には抗癌作用があると期待される。これまでに、緑茶カテキンや茶の高分子成分にアポトーシス誘導活性があることを明らかにした。今回、緑茶主要カテキンであるエピガロカテキンガレート(EGCG)および紅茶の高分子成分(BTND)の遺伝子発現に対する影響を調べた。その結果、EGCGおよびBTNDはU937細胞のc-fos、c-jun、c-mycのmRNAレベルを上昇させることがわかった。DNAチップによる解析では、EGCG処理ではほとんど影響がなかったが、BTND処理では、IL-1、IL-8、ビメンチンなどのレベルの上昇およびmRNAムチン1、テネイシン、TNFレセプターファミリー5などのmRNAの減少がみられた。さらに、細胞内情報伝達経路を調べた結果、EGCGはU937細胞の活性酸素種発生を誘導し、ASK1、MKK、p38 MAPキナーゼ系を介してカスパーゼ3の活性化を導き、アポトーシスを誘導することがわかった。 一方、EGCGは正常ヒト線維芽細胞WI38に影響を与えない濃度でそのSV40ウィルス転換細胞であるWI38VAの増殖を完全に抑制することが確かめられた。DNAチップ、RT-PCR、定量的PCRを用いて解析した結果、WI38VAでは、活性酸素消去に関わるSOD2の遺伝子発現がWI38に比べて、非常に低いことがわかった。EGCGは、これらの細胞に活性酸素種を発生させることも確かめられた。従って、癌化細胞の低いSOD2遺伝子発現がそのEGCG誘導アポトーシスに対する強い感受性に関係していると考えられる。 以上のように、本研究によって茶成分による癌細胞アポトーシス誘導のメカニズムの一端が明らかになり、緑茶飲用によりその癌予防効果が期待できることが示された。
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