我々は、大豆分離たんぱく質(SPI)を微生物由来プロテアーゼで処理した後に残る不消化画分(UDF)をラットに与えると、胆汁酸で誘発される大腸および肝発癌を強く抑制することを見いだした。UPFを与えたラットでは、糞への胆汁酸排泄量が増加し、血中胆汁酸が減少していた。糞中への窒素、アミノ酸、胆汁酸さらにコレステロールの排泄は互いに良く相関しており、このことからUDFの一部がレジスタントプロテインとなり、胆汁酸を腸管内で捕捉し糞中排泄を促進するものと考えられた。コレステロール排泄量の増加は胆汁酸が腸管内で捕捉され、ミセル形成が阻害されたものと思われる。このようなレジスタントプロテインの実体を明らかにしようと、糞中からの抽出を試みたが、その大部分が尿素やグアニジンによっても可溶化されず不溶性画分に留まった。不溶性画分のアミノ酸組成は疎水性の強いペプチドの存在を示し、また、強い胆汁酸結合能を持っていた。糞中の胆汁酸は緩衝液では抽出されず、75%エタノールで抽出されることから、胆汁酸は不溶性画分のレジスタントプロテインに疎水結合によって捕捉され、またこのため胆汁酸の大腸での発ガンプロモーター作用が抑制されるものと考えられた。このUDFをペプシン、ついでパンクレアチンで人工消化するとおよそ30%の収量で消化残渣、RF-UDFが得られた。RF-UDFのin vitroでの胆汁酸結合能はUDFのおよそ2倍であり、ラットに与えたところ10%のRF-UDFで20%UDFと同等の窒素排泄量と胆汁酸排泄促進効果が得られた。そのアミノ酸組成は、元のUDFより疎水性アミノ酸含量が増加しており、糞を加水分解して得られるアミノ酸組成ときわめて類似していた。以上の結果は、UDFの疎水性部位がレジスタントプロテインとなり、胆汁酸を結合するという我々の考えを裏付けている。現在、RF-UPFの食品への応用を検討中である。
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