文献・資料調査および現地調査を通して、以下の点が指摘された。地域らしさを保全する、あるいは地域個性をより明確に印象づける森林景観の特徴は、森林を構成する樹種や色彩の多様性あるいは均一性、樹種混交のパターン、面的な広がりの大きさ、テクスチュア、林縁境界線の明瞭性、樹幹の見え方等、の分析・整理軸(指標)により把握される。そして、その森林景観の特徴に影響する地域の景観形成要因としては、地域における人々と森林との関わり方、具体的には地域の産業構造や林業における施業体系、および地域の潜在自然植生や地形などの自然条件があげられた。 具体的な事例としては、本末同大、直幹無節、年輪幅均一の木材生産を目的として高密植栽、多間伐(利用間伐)、長伐期で育成・管理され、小規模な民有林の多い吉野の地域森林景観の場合、スギ人工林景観が広がっている、一区画が小さく数が多い、テクスチュアの要素が細かく、不揃いであるという特徴を有している。また同じスギ林業地でも、日田の場合には、そのテクスチュアを構成する要素である樹冠の形が揃っており、その配列も規則的で、全体的には整然とした印象を受ける。これは年間の生長量を重視し、効率の良い用材生産を目指して形質の良いスギを挿木で植林し、比較的粗植で単伐期施業することに起因していると考察された。また、宮崎県諸塚村では南面する山腹にクヌギ林とスギ林がパッチ状に交互に分布したザイク林を形成しており、これはシイタケ栽培の原木供給を目的として管理されているクヌギ林と、高密度の林道網により支えられているスギ林とが混交したもので、地域の産業構造、そして小規模な私有林が多いこと、緩斜面で路網が発達していることなどの地域の諸条件があいまって形成された地域景観と考察された。
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